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▼ 世界を牛耳るユーロの戦略

●イギリスが「ユーロという馬」を操っている

 世界はシステム的金融崩壊を目前にしている。にもかかわらず、ヨーロッパ連合(EU)15か国の主要国政府は、国境を超えたヨーロッパ統一通貨、ユーロを作るという気違いじみた目標を達成しようとしている。その上で、彼らは統一通貨を運営する独立したヨーロッパ中央銀行を創設しようとしている。

 ドイツ首相ヘルムート・コール、フランス大統領ジャック・シラクは98年3月9日、それぞれの大蔵大臣、中央銀行総裁と共に会談を開いた。会談後、彼らは経済通貨同盟(EMU)を予定通りスタートさせるためのすべての基本的問題が解決したと発表した。

 もっとも世論調査によれば、ドイツ人の58パーセントもの大多数が新通貨導入に反対している。しかし、「緑の党」も含めたすべてのドイツ政党はEMUを支持している。

 イギリスのトニー・ブレア政権は、EMUには参加するが、今国会中は保留という形を取っている。しかし、同政権は新しいユーロの規則を作る上で、裏では重要な役割を果たしている。イギリス政府のこの役割について、ある政府高官は「イギリスがユーロという馬を操っており、その馬の後足をドイツが担当している」と述べている。

●進行するEMU体制

 アジア金融危機のショックはまだ、ヨーロッパ市場も含めた世界市場が最終的に崩壊するほどの大きな影響を与えていない。それゆえ、EMU導入計画は今後数週間で重要局面を迎える。

 第一に98年3月25日、ヨーロッパ通貨研究所とブリュッセル・ヨーロッパ委員会による発表が行われる。マーストリヒト条約は1991年12月に結ばれ、EUに関して四つの「参加基準」が定められた。3月25日にはその参加基準を満たした国々が発表されたのである。

 マーストリヒト条約で最も重要な基準は、1997年における国家の公共赤字をGDP3パーセント以内に抑えるという厳しい基準である。これについては11か国が二週間前に基準を満たしたことを発表し、ユーロ導入当初から参加する意向を述べた。しかし、ユーロに参加できる国は5月2日の15か国首脳による特別サミットで発表される。

 世界最初の官僚的・中央銀行の開設は、基本的には政治問題である。しかし、この銀行は、いかなる政治的チェック、政治的バランスの影響を受けないことになっている。つまり、フランケンシュタインの怪物のようなものであり、かつてのイギリス銀行総裁モンタギュー・ノーマンなら、この銀行を見て羨んだことだろう。ノーマンは1920〜30年代、世界経済を包括するような中央銀行の創設を考えていたからである。

 EMU導入にあたって一つの大きな障害は、四人のドイツ人(元ドイツ連銀総裁ヴィルヘルム・ノエリングを含む)による最高裁提訴である。ボン情報筋は、この提訴によりEMU導入はダメージを受けるが、その程度は「せいぜい10〜15パーセント」だろうと述べている。

 ドイツ憲法裁判所は、公的にはEMU破棄の方向へは動かない模様である。それゆえ、ユーロはマーストリヒト条約で定められた通り、1999年1月1日に法的通貨として導入される見込みである。

 ヨーロッパ大手・多国籍企業の経営者たちは、EMU導入に備えて自社体制を整えねばならない。しかし、彼らの中には、ユーロ導入によってヨーロッパ全土で大きな解雇の波が起こると考えている人もいる。

 通貨導入は特に、ヨーロッパの多くの国々に展開している為替業務企業に大打撃を与えるだろう。理由は簡単である。ユーロが導入されれば、11の国々が単一通貨を持つことになるからである。この単一通貨導入により、現在の通貨の壁が取り払われる。これまではこの通貨の壁により、国境を超えた大規模な買収・取引にストップがかかっていた。しかし、これからはこうした買収が行われることになり、それは厳しいコスト・ダウン、ダウンサイジングを意味することだろう。

 極めて極秘のブリュッセルからの情報がある。それは、政治的にあまりに影響が強すぎるため公表されてはいない。

 この情報によれば、EMUが99年1月に導入されれば、各企業でダウンサイジングの大きな波が起こり、ヨーロッパの大企業、大銀行から恐らく1000万人ほどの職が恒常的に失われてしまうだろう。EMU参加希望国のほとんどと同じく、既にドイツ・フランスでも公的失業率は12パーセントを超えており、これは1930年代以来見られないレベルである。

●なぜEMUを導入するのか?

 明らかな疑問はこうである。もしEMUによって豊かさが得られず、職も創設されないのなら、なぜヨーロッパ有権者は、国家主権という最も貴重な切札をみすみす手放すのだろうか? それもヨーロッパ中央銀行の通貨官僚の言いなりになって?

 これに対する答えの一つとして、ユーロ導入について、そもそもヨーロッパ市民は意思表示の場を持てなかったことが挙げられる。

 92年6月、唯一国民投票が行われたデンマークではユーロ参加が見送られ、この結果デンマークはユーロ発足当初の加盟国にはならないこととなった。デンマーク国民投票以来、92年のフランス国民投票を除けば、ヨーロッパ有権者は十分な公開討論を持つ場がなかった。なおかつフランス国民投票にしたところで、大統領フランソワ・ミッテランによる大規模な情報操作が行われたのである。

 単一通貨という計画は、有無を言わせない形でヨーロッパ市民に突き付けられた。一方、ブリュッセル委員会はユーロ寄りのプロパガンダを行うために、納税者の資金を大量に費やしたのである。

 なぜヨーロッパの政治家たちが、かくも支持を得られない政策を推進しているかについてははっきりしていない。分かりやすい答えは、政党資金の多くが、ユーロをバックアップしている巨大多国籍企業・銀行から流れているというものである。しかし実は、これよりもっと大きな理由がある。

 EMU支持者、例えばEU委員会・副委員長レオン・ブリタン(イギリス)やフランス大蔵大臣ドミニク・ストラスカーンの言葉に、そのヒントがある。両者ともに、アメリカドルに代わる世界準備通貨を創設するためには、ユーロ導入に伴う犠牲もやむなしと述べている。

 ブリタンはドイツ「デア・シュピーゲル」誌との98年2月23日のインタビューで次のように語っている。 「世界の準備通貨・貿易通貨としてのドルの支配は、ユーロ導入によって終わるでしょう。そして、ユーロが新しい世界の準備通貨となるにつれて、国際社会でのヨーロッパの発言権は高まるでしょう。」

 98年1月半ば、アメリカ上院議員の政策立案グループ(リーダーは共和党のピート・ドメニチ)が、ドイツ連銀総裁ハンス・ティートマイヤーと会見した。この席上、ティートマイヤーは「ユーロが強い通貨になるだろう」と述べ、上院議員たちを驚かせたのである。

●アメリカドルからユーロへ

 ティートマイヤー、ストラスカーン、あるいはドイツ銀行、ドレスデン銀行、クレディ・リヨネ銀行の首脳たちは明らかに、ユーロという「強い通貨」を導入しようとしている。そして、彼らはこの政策の実行に当たり、アメリカの莫大な預金量を当てにしていることが分かる。

 ドレスデン銀行は最近、EMU導入の影響について報告書を発表した。その発表には次のような言葉がある。 「ユーロがドルに対して強くなるためには、ヨーロッパに公的・私的資本が流入しなければならない。ユーロにはアメリカドルから7500億ドルもの流入があるだろう。その後も年毎に500〜750億ドルの預金がユーロに流入するだろう。」

 この発表は、ドルからユーロへの移行には10年以上かかると計算している。この移行が本当に10年かかるにせよ、もっと短くてすむにせよ、ドルからユーロへの資本流入は莫大な量に上るだろう。

 一言で言えば、ヨーロッパ大銀行はアメリカの証券会社・年金会社・銀行がヨーロッパに大量の資本を投入すると踏んでいるのである。

 ロイターが最近出した研究は、ヨーロッパに巨大な単一株式市場が出現すると述べている。これにより21世紀、ユーロ通貨圏は「世界最大の株式市場」となる見込みである。

 1996年、アメリカがアジア新興市場に投入した資本は総額2500億ドル近くに上った。現在、アジア市場はほとんど崩壊しており、アメリカの投資会社は高利益の上がる新しい地域を血眼で探している。

 ドレスデン銀行のようなヨーロッパの銀行は、「これから出現するユーロ市場こそ投資すべき市場である」と、アメリカ人に宣伝している。短期間に7500億ドルもの資金がドルからユーロ圏内に移行すれば、それは歴史上ないほどの金融・通貨危機をアメリカにもたらす可能性がある。

 アメリカの投資会社に預金しているアメリカ人の大部分は、金融について何も知らない人々である。彼らは子供の学費、あるいは退職後のために、利率の高い投資会社に預金を預けている。ドメニチ上院議員らが、新しいユーロ市場の推移に懸念を抱くのも不思議ではないのである。

 日本・アメリカの官僚の中には最近、何らかの新しいブレトンウッズ体制を求める声が上がっている。これを受けてイギリス「オブザーバー」誌記者ウィリアム・キーガンは98年3月8日、次のように書いている。 「現在、ヨーロッパの経済・通貨連合が取るべき体制は固定相場制のみである。」

 これから数週間経てば、ヨーロッパがどのような体制を選択するかが明らかとなるだろう。そして、それは世界全体にも影響を与えるだろう。
レオン・ブリタンのユーロ支持発言

 ヨーロッパ委員会の副委員長レオン・ブリタンが、ヨーロッパの通貨統合に関し、イギリスの立場を表明した。その内容は、98年2月23日の「デア・シュピーゲル」誌に掲載された。 「ユーロ導入が成功すれば、ヨーロッパ経済は強化され、大きな力が生まれるでしょう。それにより、ヨーロッパ連合はまとまり、統一して対外関係を処理していくでしょう。

 私は、ユーロが主要貿易通貨、そして恐らく主要準備金通貨となると期待しています。これによって、ヨーロッパ市場はさらに発展し、国際金融システムはよりバランスが保たれるでしょう。

 国際社会におけるEU発言権も増すでしょう。もちろん、これによってドルの強さやアメリカの影響力に陰りが出ることを恐れている人もいるかもしれません。しかし、そのような心配は考え過ぎです。EUがより強く、力を増すことはアメリカの利益にもなります。なぜなら、EUは基本的にアメリカと価値観を同じくした連合体だからです。

 私はEUが新しい責任を持たねばならないと考えます。もっともアメリカの立場も複雑であることは、私も認めます。」

通貨改革に関するジョージ・ソロスの意見

 国際投機家ジョージ・ソロスはイスラエルのシモン・ペレスと会談し、その内容がイタリアの「リベラル」誌98年3月12日号に掲載された。

 会談の話題の一つに通貨改革があり、ソロスは「新ブレトンウッズ体制」を主張した。しかし、もちろん彼が主張しているのは、明らかにイギリス主導の世界政府であり、モデルは大英帝国である。

 ソロスは言う。 「国際レベルで、何らかの国際監視機関、それもブレトンウッズ精神に基づいた機関を設立する必要があります。もし世界市場安定を目的とする機関を私達が創設できないなら、世界は崩壊へと向かうでしょう。

 世界の資本主義システムは誤った考え方に基づいています。それは、個々人が自由に資本活動を行えば、システム全体は安定するという考え方です。アジア危機が示しているように、これは全くの誤りです。

 アジアが不安定なのは外的要因によるのではなく、システムそのものによります。『私的官僚』は個々人の利益を重視し、その結果システムを不安定にします。一方、中央銀行家のような『公的官僚』は規制、安定の役割を果たします。

 国際中央銀行という考え方、あるいは公的官僚による監視体制が必要です。これに加え、従わない国々を民主主義陣営に引き入れねばなりません。もっとも、私のこの考え方が実施されるとすれば、それは崩壊が起こってからでしょうね。

 各国を放置すれば、平和など保つことはできません。私達は平和維持を目的とした国際組織を必要としています。

 『それは帝国のような組織、あるいは権力バランスの上に成り立つ組織です。』

 現在の国際期間はうまく機能していません。なぜなら、それは国家によって形成されており、それゆえ各国の国益の道具になっているからです。

 冷戦時には、権力バランスが存在していました。しかし、今日では超大国はアメリカ一国だけであり、そのアメリカも世界の警察になる能力を持ち合わせていません。

 『19世紀、世界には資本主義システムがあり、それを安定させていたのは帝国主義を掲げたイギリスでした。』

 このイギリス支配は他の列強(プロシア、オーストリア・ハンガリー帝国、オスマン帝国)の台頭により揺るがされ、平和が保たれなくなりました。

 現在、私達は平和維持システムを何一つ持っていません。現在、権力バランスもなく、帝国も存在しないからです。」

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