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▼ 新保守主義者の弾道ミサイル防衛計画の狙い


●BMD計画はクリントンの対外政策に対する政治的挑発

 1999年1月20日にアメリカ国防長官ウィリアム・コーエンが、「アメリカは、弾道ミサイル防衛(BMD)計画の予算を増額する予定である」という発表をしたことによって、ここ数ヶ月の間、国際的な騒ぎが巻き起こっていた。
 このBMD計画は、長い間共和党議員の大多数が明確な態度を取ってきた問題である。BMD計画は、アメリカと、ロシア・中国をはじめとする国々との関係を不安定化させるような代物である。
 新聞報道では、クリントン大統領は、共和党が進めているこの計画に黙って従っていたという印象があったかもしれない。
 しかし実際には、政府内の諸勢力は、この政策をどのようにするかについていまだに意見を戦わせているし、大統領自身は、「全国的にしろ、地域的にしろ、ミサイル防衛システムを配備することについては決定を下していない」と表明して来たのである。

 共和党員の大多数が推進してきたこのBMD計画は、防衛政策などではない。
 クリントン大統領は、苦心を重ねてロシアの指導者層との協力関係を作り、中国とのパートナーシップを育てようという構想を進めている。BMD計画は、それを妨げるために計画された政治的挑発なのである。

 共和党はBMD計画の中で、全国的なミサイル防衛と、地域戦域ミサイル防衛の両方についての提案を行ってきた。これについては、現在国防総省で検討が行われている。
 このBMD計画は、レーガン大統領が1983年3月23日に発表した戦略防衛構想(SDI)とは、事実上まったく違うものである。

SDIを骨抜きにする

 1994年11月の選挙の後、共和党は議会を掌握し、BMD計画を推進し始めた。それ以来、レーガン大統領のSDI計画は、長きにわたって致命的な打撃を受け続けてきたのである。
 レーガン大統領は、「SDIの目的は、レーザーや、エネルギー制御システムなどの“新しい物理法則”に基づく科学技術を発達させることによって、核ミサイルを“無能力化し、時代遅れにする”ことである」と発表した。SDIはその日以来、攻撃を受け続けてきた。

 マスコミは、SDIを“スターウォーズ”とからかった。そして、レーガン大統領は、ソ連を招待し、アメリカと共同開発をするように申し出たにもかかわらず、“左”の陣営は、「SDIは弾道ミサイル迎撃ミサイル(ABM)条約を破壊する」と言って攻撃を行った。

 反核・反テクノロジーを掲げる科学関係者のグループは、「BMD計画の技術は成功しない」と断言していた。
 財政的に保守的な“右”の陣営は、「その技術が成功したとしても、コストがかかりすぎるので、どのような方法で配備したとしても、実用化は無理である」と言った。
 しかし、アポロ宇宙計画がそうだったように、SDIの開発によって産業が復興することが期待できるし、SDIでの発明によって、経済に対して何度も見返りがあることが期待できるのである。彼らはこのことを理解しなかった。

 1993年にクリントンが大統領になった時には、SDIはもはや“戦略”ではなくなっていた。ソ連が崩壊したことによって、1991年にジョージ・ブッシュが、限定攻撃に対処するだけのG-Pals方式に変更していたからである。
 先進技術を使った宇宙空間からのエネルギー制御テクノロジー計画は、資金をそちらに回すことに反対する議会によって骨抜きにされ、残ったのは、1960年代の運動学的(キネティック)撃墜システムであった。これは、ミサイルを他の物体にぶつけることによって撃墜する方式である。
 1993年、クリントン政権の国防長官だったレス・アスピンは、レーガン政権が設置した“戦略防衛構想機関”を“弾道ミサイル防衛”という名称に変更した。ロシア政府は、BMDシステムを共同開発することを申し出てきたが、ホワイトハウスはその申し出を断った。


“ギングリッチのSDI”

 1994年には、新冷戦“サード・ウェイバー(第三の波論者)”たちが、「ロシアから弾道ミサイルが誤って発射された場合や、ある“ならず者”国家が発射した場合に、アメリカは非常に危険である」と主張した。
 共和党議員の大多数はこの主張を支持し、BMDを配備すべきだという提案が再び復活した。

 1994年の選挙から1ヶ月も経たない頃、ジョン・カイル下院議員(共和党、アリゾナ州)は、「今度の議会では、ロシアとの間で結ばれているABM条約を、アメリカが一方的に破るようにさせるために、弾道ミサイル防衛問題に関する“立法攻撃”が行われるだろう」と演説した。
 下院での首謀者は、カート・ウェルドン議員(共和党、ペンシルバニア州)であった。ウェルドン議員は、元ペンタゴンの冷戦の戦士であるフランク・ガフニーの安全保障政策センターから、宣伝に関して多大な援助を受けていた。
 しかし、BMD計画を性急に実現させようとするギングリッチの一派は、連邦予算のバランスを取ろうとする“アメリカの契約”への固執に対して攻撃を食らわせた。

 1995年2月、下院は宇宙防衛システムの配備に関する法案を否決した。議員の大多数は、その法案が予算の違反になると思ったのである。
 地上防衛システムはもっと安上がりだったが、そちらの方の優先順位は低かった。マスコミは、「ギングリッチの“アメリカの契約”攻撃隊の最初の敗北」と報道した。

 1995年の春、ギングリッチの提案で、共和党がABM条約を覆そうとしていることに関して、ロシアが対応を取ってきた。そして、ダンカン・ハンター下院議員(共和党、カリフォルニア州)などが、ウェルドンの宣伝部隊に加わったにもかかわらず、その年に法案を通すことはできなかった。

 1996年の初め、国防長官ウィリアム・ペリーは、1997年の会計年度におけるBMD計画の予算枠を減らそうという提案をした。それは、陸軍の戦域高々度広域防衛(THAAD)計画と、海軍のイージス艦に搭載される上層システムに回す予算が減ることを意味していた。これは、前の年に議会を通過した国防予算とは矛盾していた。

 ペリーと政府は、「アメリカを中国のミサイル攻撃の脅威にさらしている」ということで、ただちに非難を受けた。
 ガフニーは、1996年3月10日の新聞発表で、「議会がBMDを開発しなければならないという切迫感を強めたのは、台湾の選挙が行われている間に、中国が台湾に対する弾道ミサイル攻撃の準備を行っているからだ」とまくしたてた。
 さらにガフニーは、クリントン大統領が中国主席江沢民との会談を準備している時に、『ワシントン・タイムズ』の第一面にばかばかしい見解を発表した。ガフニーは、「アメリカが中国と台湾の“内部論争”に介入するなら、中国はロサンゼルスを攻撃する」と中国が述べたと断定したのであった。

 1996年、ウェルドン下院議員は、“ならず者”諸国家と事故によるミサイル発射の防衛のために、2003年までに全国的なミサイル防衛を完成させるべきだという下院3144法案を議会に提出した。しかし、その提案の命も長くはなかった。

 法案が提出されたすぐ後に、議会予算局は、「そのような防衛設備は、400億ドル以上の天文学的な費用がかかる」という報告を発表した。
 これを聞いて、予算の調停者たちはびっくり仰天した。「現在利用可能なテクノロジーである運動学的撃墜方法だけにすべきだ」という説明がアナリストたちになされた後で、議会予算局は、見積額を40億ドルから140億ドルの間に変更した。しかし、すでにその法案には、“法外なコスト”という汚点が付いてしまったのであった。

 BMD問題を巡るこのような動きに応えて、クリントン大統領は、1996年に「弾道ミサイルの研究開発は、2000年まで継続する方針である」と発表した。そして、「配備するかどうかの決定は、アメリカへの脅威と、配備可能なシステムが技術的にすぐできるかどうか、そして費用の点を考慮に入れて行う予定である」と述べた。

 1997年、産業誌『エイビエイション・ウィーク』は、「共和党は、ミサイル防衛問題を推進する勢いを失った」と報道した。
 上院多数党院内総務トレント・ロット(共和党、ミシシッピ州)は、1月に法案を提出したが、それに反対する民主党の妨害を受け、その法案に関する評決は1回も行われなかった。
 クリントン大統領は、「BMDシステムの配備を定めた法案はすべて拒否する」と表明した。その理由は、「大統領の手に余る重要な決断を要するからである」というものであった。
 ロットは後に、アメリカ国民がBMD計画を支持していないことを認めた。

 しかし、ガフニーの率いる新保守主義者は、「反中国、“ならず者”国家のミサイル防衛」を声高に叫び続けた。
 彼らは、「中国関係者がクリントン政権の政策に影響を及ぼすための不法な運動を行った」という非難を行って、クリントン大統領をおとしめようというインチキキャンペーンを始めた。彼らは、大統領が犯したと思われる犯罪リストに、「中国に対して、アメリカを弱くさせた」という項目を付け加えた。

 また、その前の年には、クリス・コックス下院議員(共和党、カリフォルニア州)が、「アメリカは、商業用通信衛星を中国に売り、中国の長征の乗り物に搭載されていたランチを買ったことによって、国家の安全保障に関して妥協した」という非難を一年中行っていた。
 モニカ・ルウィンスキーの話が出るまで、ガフニーとその仲間は、「大統領は、中国に取り入って、アメリカの安全保障を危うくしたことにより、弾劾されるべきだ」と要求していたのである。

 1998年も、BMDを推進するロビイストたちにとっては、事態はまったく良くならなかった。
 9月9日、上院は、サド・コックラン上院議員(共和党、ミシピッピ州)が提出した法案を棄却した。その法案は、全国的なミサイル防衛の配備を“技術的に可能な限り早く”行うことを要求したものだった(2000年の配備規定は、この法案が提出される前にはなくなっていた。THAADシステムのテストが失敗続きだったので、2000年までには実現不可能と思われたためである)。
 法案に賛成したのは、共和党の他に、たった4人の民主党員だけであった。法案を通すのに必要な3分の2には遠く及ばなかった。


●延期された配備決定

 「共和党は、今年も再びミサイル防衛を問題にするだろう」という予測のもとに、政府は積極的な動きを始めた。
 前の年の夏には、議会が任命し、元レーガン政権の国防長官ドナルド・ラムズフェルドが委員長を務めるブルーリボン委員会が報告書を提出した。その報告書では、政府の情報機関によるアメリカへの脅威の見積もりが批判されており、それに修正が加えられていた。

 弾道ミサイル脅威査定委員会は、7月に、「我々は、“ならず者”諸国家がアメリカにもたらす脅威は、政府が以前に見積もった10年間よりも少ないと信じる」という報告書を提出した。
 査定委員会は、「予算の削減によって、情報機関が脅威を査定する能力が衰退してきている」「警戒期間は、短縮されつつある」「ロシアや中国などから情報を買うことができるので、他の国々は、自らの情報収集能力を高めるのに時間を費やす必要はない」と述べている。

 1998年12月、コックス委員会は、700ページの報告書を提出した。この報告書は、現在も機密指定扱いになっている。
 コックス委員会とは、人工衛星を使って国家の安全保障に関する調査を行い、また中国とのランチ取引についての調査も行っている委員会である。
 その報告書では、アメリカと“共産主義”中国とのハイテクノロジーの取引をやめさせるような厳しい対策を取るべきだという要求がなされていた。中国は、冷戦の戦士にとって、新たな敵と見なされているのである。

 1999年1月7日の『ニューヨーク・タイムズ』には、このような記事が掲載された。
「政府は、今後5年間のBMD予算を70億ドル増額すると思われる。これは、『クリントン氏は、ミサイル攻撃からアメリカを守ろうという努力を十分にやっていない』という批判が高まっているのをかわすためである。」
 1月20日には、コーエン国防長官が予想通りの発表を行った。それは、「“5年間”のBMD予算を、66億ドル増額する予定である」というものだった。
 コーエンは、「我々が開発している能力には限りがあり、我々はその限りある能力を、主にならず者国家の脅威に対処するために集中させている。ロシアの核兵器に対処するほどの能力はない」と述べた。

 新聞報道では、「発表のあった新たな増額の大部分は、“配備の決定がなされた場合”に、2000年以降に行われる」という事実は強調されていなかった。つまり、BMD計画の予算増額は、すぐに行われるというわけではなかったのである。
 また、「システムの技術上の問題により、政府は、現在可能な配備でも、少なくとも2年間は公式に延期する予定である(2003年のところを2005年まで)」と発表された。
 明らかに、大統領と政府の役人たちは、コーエン長官が“ロシアと中国は別である”というような意味の発表をするとは思っていなかったのである。

 しかし、1月20日に行ったマスコミへの状況説明では、コーエンは、「ペンタゴンが描いている地上対ミサイル防衛は、ABM条約に違反する新たな地上レーダー基地を作る必要がある」と述べた。
 さらにコーエンは、「我々は、ABM条約から手を引くような国家利益の選択肢を選択するしかない」と述べたのであった。

 ロシアはただちに反応を示した。
 ロシアの国家会議(下院)は、「そのような動きをするならば、第二次戦略兵器削減交渉(SALTII)が可決される可能性はなくなる」と言った。
 ロシア政府は、「アメリカがそのような行動を取ることは、ロシアにとっては戦略上の脅威であり、国際戦略バランスを崩すことになる」と述べた。
 中国は、選挙運動財政スキャンダルを推進し、中国とのハイテクノロジー取引をすべてやめさせようとしているロビイストたちが、クリントン大統領に対し、台湾の戦域ミサイル防衛に賛成するように仕向けようとしていることを十分に知っていたので、同様にコーエン長官の発言を攻撃した。

 コーエン長官の記者会見が行われた次の日、国家安全保障会議の軍備管理専門家ロバート・ベルは、コーエンの発言内容を釈明し、「アメリカとロシアが結んでいるABM条約は、戦略上の安定を確保するための“礎石”である」と述べた。
 大統領国家安全保障顧問サンディ・バーガーも、同じように述べた。しかし、国際メディアは、すでに誇大宣伝活動を始めていた。
 現在、クリントン政権は、この状況にどういう対応を取るべきかについてお互いに協議し合っているロシアと中国に対して、方針を説明しなければならないという態度を取っている。

 2月18日、中国叩きのコックス下院議員は、ロンドンで演説を行った。
 コックス議員は、「中国との取引と契約をやめることによって、国家の安全保障を確保するという“非難のしようがない”と思われる問題と、アメリカと同盟諸国をミサイル攻撃から守るということは、どういう関係があるか」について表明した。
 この時の聴衆は、コックス議員に賛成する人たちばかりであった。コックスは、ヨーロピアン・アトランティック・グループの聴衆に対し、イギリスは「個人に権限を与え、国家主義と計画性を弱めた」という貢献を行ったこと述べた。つまり、「イギリスは、発展途上国が国際金融機関に搾取されるのを解放した」と言ったのであった。
 コックスは、「イギリスの経験論とプラグマティズム(実用主義)が正しいことは、十分に証明された」と述べた。

 コックスは、イギリスが世界で唯一残った帝国であることを称賛した後、アメリカとその従兄のイギリスが、北朝鮮、イラク、ロシア、中国の脅威にさらされていることを警告した。そして、弾道ミサイル防衛の必要性を強調した。

 4月には、新保守主義者が、ますます政治的揺さぶりをかけてくるだろう。それは、4月上旬に中国首相朱鎔基が、ワシントンを訪問する時まで続くと思われる。
 昨年の防衛予算の法案に関して、共和党に牛耳られた議会が命令した報告書が、ペンタゴンから議会に提出された。
 その報告書の一つは、台湾海峡の安全保障について述べたものだった。台湾が、中国の軍事行動に対して弱いという内容である。
 もう一つの報告書は、アメリカのミサイル防衛システムを、台湾を含めたアジアに地域的に配備する可能性について述べたものだった。

 その報告書は、二つともまだ機密指定になっているが、『ウォールストリート・ジャーナル』などの定期刊行物は、新聞の見出しに負けないくらい、中国が台湾に何百ものミサイルを向けていることについて非難を行っている。そして、そのミサイルの防衛のために、戦域ミサイル防衛を行うことを要求しているのである。

 台湾で発行されている『チャイナ・ニューズ』の2月22日号には、このように述べられている。
「ペンタゴンは、北京と台北に高官数名を送った。その目的は、中国政府に対し、アメリカが戦域ミサイル防衛について考えている内容について説明し、彼らの意見を聞き、その報告書が彼らを挑発するような事態を避けるためである。」


●出されなかった人工衛星輸出許可

 しかし、クリントン政権は、自ら墓穴を掘るような行動を取ったのであった。
 2月23日、クリントン政権は、「ヒューズ・スペース・アンド・コミュニケーションズが、アジア・パシフィック・モービル・テレコミュニケーションズ共同企業体に対し、商業用通信衛星を売ることについての許可は与えない」という発表を行った。その企業体は、中国人が51%を所有する会社となっているが、その会社が人民解放軍とつながっているというのが理由だった。

 ホワイトハウス、ペンタゴン、国務省のいずれのスポークスマンも、「このことは、アメリカの中国に対する輸出政策の変化を示すものではない」と言った。
 しかし、産業関係の役人は、「人工衛星の輸出許可が出なかったのは、今回が初めてのことだ」と報告しているし、「アメリカと中国間の、航空宇宙産業や他のハイテクノロジーの取引の将来にとっては悪い兆候だ」と述べている。

 ますます多くの国が、これは技術移転でもなく、中国からのミサイルでもなく、戦略上の脅威である“ならず者諸国家”でもなく、国際金融機関が発展途上国に対して“死の願望”を持っているということを認識しつつある。
 現在、ホワイトハウスは、破滅を招く“自由市場”経済政策を支持しているが、もしホワイトハウスが、ロシアと中国とのパートナーシップを保つことを望むのであれば、それを変更する必要がある。しかし、そのためには、あとわずかな時間しか残されていないのである。

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