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●プリマコフを巡る動き
ストローブ・タルボット国務副長官は、ロシア問題については、間違いなく大統領が最も信頼している顧問である。
そのタルボット副長官が、数週間前にロシアから戻ってきた。彼が行った報告は、大統領を真顔にさせた。
タルボットは、「ロシアの状況は、著しく悪化している」と報告した。
「財政と経済の分野における危機的状況は、いっそうひどくなった。そして、アメリカとイギリスがイラク攻撃を続行していることによって、緊張が高まっている。さらに、バルカン半島における軍事行動がロシアにとって脅威となっていることと、NATOが新たなグローバル化を目指すドクトリンを掲げていることが、緊張をいっそう高めている。
このような状況下で、過激派と反アメリカ分子が勢力を伸ばしている。プリマコフ首相のロシア政府は、政権の安定を脅かされている。」
クリントン大統領が不安を感じたのは、公然の事実となっている。大統領は、予定されているプリマコフのワシントン訪問を重視し、プリマコフが大統領ではなく、首相であるにもかかわらず、自分が直接出て中心的な役割を果たすことを決定した。
バルカン半島情勢が悪化している最中にあって、プリマコフとの会談は、ますます重要性を増していた。クリントンは、バルカン半島に関するアメリカの政策において、ロシアが重要なパートナーの役割を果たしてもらうことを常に意図してきた。
もしアメリカが、ロシアと親密な関係を保ちながら、ロシアを巻き込んでいかなかったら、コソボ危機は解決しないということをクリントンはよく知っていた。
クリントンは、プリマコフと会談をするのは初めてだったが、クリントンは明らかに、その会談において、コソボ危機で生じている戦略的ジレンマに対し、両者が何らかの解決を出せるのではないかという期待をかけていた。
しかし、1999年3月23日の午後2時頃、プリマコフはワシントンにまもなく到着する予定になっていたが、ホワイトハウスは、突然以下のような説明を行った。
「プリマコフ首相は、アル・ゴア副大統領と電話をした後、イリューシン62機の乗組員に対し、機を引き返すように命令した。」
なんとプリマコフの訪問は中止になったのである。プリマコフは、モスクワへの帰途に就いていた。
そして、その数時間後にNATOの攻撃が始まった。NATOが、セルビアの攻撃目標に対して、爆撃を開始したのである。
ロシアは声明を発表したが、その発言の主旨は、冷戦時代の内容と似たようなものだった。
なぜこのようなことが起こったのか。ものの数時間のうちに、状況がこのように突然変化したというのは、どういう経緯だったのだろうか。
アル・ゴアは、プリマコフと電話をした時に、何を言ったのか。そして、アル・ゴアにそのような許可を出したのは誰だったのか。
●矛盾する話
ここに矛盾する話がいくつかある。アル・ゴアの声明文書には、次のように書かれている。
「私は、セルビアのミロシェビッチ大統領が、我々の努力を拒否したことをプリマコフに知らせた。ミロシェビッチは、コソボ住民に対する犯罪的行為を開始し、住民の中には、子供や女性も含まれているということを知らせたのである。そして、コソボの状況が悪化していることについて話し合った後、プリマコフはモスクワに戻ることに決めたのである。」
後にゴアは、プリマコフが「自分がワシントンにいる間は、攻撃を開始しないということを保証してほしい」と言ったということを述べている。それは、プリマコフがワシントンに到着する際の前提条件であるということであった。
しかし、ゴアは「それは保証できない」と言ったということである。
ホワイトハウス関係者の話によれば、その経緯は少し違っている。
ある関係者は、「ゴアが電話をした理由がよくわからない」と言っていた。
プリマコフは、ワシントンに到着するはずだった日には、もっと手前のシャノン島からゴアに電話をかけている。プリマコフは、その電話の時に、リチャード・ホルブルック大使がミロシェビッチとの交渉に失敗して、ホルブルックはブリュッセルに戻る途中だということをすでに知っていたはずである。
その時点では、プリマコフは予定を変更しなかった。プリマコフの乗った飛行機は、予定どおり離陸したのである。これでは説明がつかなくなる。
ホワイトハウスと議会関係者の話では、どの人も、「大統領がプリマコフと会談を行うまでは、攻撃はしない予定だった」と断定している。
アル・ゴアが2度目の電話をした時には、クリントンは明らかに拘束されていた。
クリントンは、電話の前には国家安全保障チームとの会議を行っており、議会の指導者たちともいくつか会議を行った。クリントンはさらにその後、全米州・郡・市被雇用者連盟隔年年次会議で演説をしたが、その演説の開始時刻は、予定の時間より1時間以上遅れていた。
ペンタゴンは、明らかに攻撃の予定を繰り上げることを主張していた。ペンタゴンは、ミロシェビッチのセルビア軍が、残虐行為をエスカレートさせていることを報告する際に、天気予報のことから、月の周期のことまで話題に出していたのである。
報道では、「ゴアは、プリマコフに情報を伝えようとして電話をした」と発表された。しかし、プリマコフはモスクワで、以下のように説明した。
「副大統領が電話をかけてきて、『攻撃を開始するという変更不可能な決定が行われた』と言ったので、飛行機を戻させたのである。」
●ホワイトハウスのコメント
大統領報道官ジョー・ロックハートは、「大統領は、プリマコフが訪問を“延期”することに同意していたか」という質問に対し、単純に「ノー」と答えた。しかし、NATOが爆撃を行っている間に、ロシアの首脳がワシントンに滞在することなどあり得ないし、できないだろうということはわかりきっていた。
ゴアは、プリマコフに電話をかければ、プリマコフは帰国するだろうということがわかっていたはずである。
ゴアは、以前にも1回、クリントンとプリマコフの会談を妨害したことがある。
クリントンが最初にプリマコフとの会談の予定を立てたのは、1998年11月のことだった。その会談の予定と重なって、マレーシアでアジア太平洋経済協力フォーラムが開催される予定になっていたが、クリントンは、その大事な会議よりもプリマコフとの会談の方を選んだのである。
しかし、会談の予定はぶちこわしとなった。アル・ゴアと、外交政策チームの代表者会議がイラク危機を作り出したからである。
ゴアは、クリントンの代理でマレーシアに行ったが、それは悲惨な結果を生んだ。クリントンは、プリマコフとの会談ができなくなっただけではなく、中国国家主席江沢民との会談も中止せざるを得なかった。
ゴアは、会議のホスト役のマハティール首相に、不作法で侮辱的な振る舞いをなし、アメリカとアジアの関係をひどく傷つけた。今回ゴアがやったことは、もっと高い代償を支払わざるを得ないだろう。
●グローバルな財政メルトダウン
プリマコフが劇的に予定を変更をした次の日、ワシントンでセミナーが行われた。そのセミナーでは、「現在の危機的状況は、世界的な財政メルトダウンが起こっているというコンテクストの中でのみ理解することができる」と強調された。
「世界は、IMFを支持する国と、IMFに反対する国の二つのパートに分かれてきている。この傾向はどんどん強まっている。IMFを支持している国は、支持していない国から、不信を買い、憎まれ、攻撃されるようになっている。」
確かに、ロシアが欧米に強烈な反発をするようになったのは、IMFがロシアに厳しい貸付条件を課してからのことである。
「IMFの現在の方針が大幅に変わらなければ、財政危機は今後も続き、IMFの方針を巡って世界的な争いが起きるだろう。」
アメリカは、矛盾する二つの政策を進めることはできない。大統領は、ロシアと中国と協力し合って、経済におけるパートナーシップを作っていきたいという希望を何度も表明している。
つい最近でも、大統領は、3月19日に西海岸から声明を発表し、「アメリカは、ロシア国民の生活水準を上げるために援助をしなければならない」という見解を改めて述べている。
クリントンは、予定されていたプリマコフとの会談では、このことについても話す予定だと言っていた。つまり、ゴアの見解とは全く違うのである。
もし、国民の利益を取るか、金融機関の利益を取るかの選択に迫られたら、クリントンは国民の利益を選び、ゴアは金融機関を選ぶのである。
●ゴアに身のほどを思い知らせる
今のところ、大統領はゴアをうまく統御できていない。その結果、クリントン政権の政策は何なのか、国際社会はよく理解できず、大きな混乱を招いている。
3月のその出来事以来、クリントンは手持ちの時間がなくなってきている。
合衆国憲法では、クリントンは、アル・ゴアを解任することはできない。しかし、力を抑えることはできる。アル・ゴアの仕事は、憲法の定める範囲に限定するべきなのである。
「代表者委員会なるものは、憲法の保護は受けられない」ということが強調される。
「アメリカの政策に関わる不透明な部分を排除するためには、代表者委員会は、大統領の支配のもとに置かれなければならない。もしそうしないのであれば、代表者委員会は解散させるべきである。」
ゴアの国家安全保障補佐官レオン・フューアスは、主人であるゴアの意見を反映したような見解を繰り返し述べているが、フューアスが言うことは、クリントン大統領の見解とは正反対である。ゴアが余計な仕事をするのは、やめさせなければならない。
しかし、必要なのはこれだけではない。
「アメリカとロシアの関係は、最近の一連の出来事によって一層悪化した。よって、アメリカとロシアが関係を修復する道はただ一つである。ロシアがIMFの政策で被った損害を確実に回復させるような提案を、アメリカが行うことである。」
「アメリカは、ロシアが実体経済を再建できるように、真剣に援助をする必要がある。二つの大国同士の間で開き続けているギャップを埋める道は、それしかない。そして、戦争に発展するかもしれない事態の進行を止める方法はそれのみである。」
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