●ウィリアム・リース・モッグ卿の変節?
ウィリアム・リース・モッグ卿は、一代限りの貴族で、『タイムズ』の元編集主幹である。リース・モッグは、“情報スーパーハイウェイ”によって“新封建主義”に逆戻りすることを雄弁に支持している。
彼は、ウィリアム・ジェファーソン・クリントン大統領の第一級の敵であり、“マネー”と“実物経済の発達”との区別ができたためしがない。これは“ニューエイジャー”の常である。
しかし、リース・モッグ卿は、最近になって、ユーゴスラビアとの戦争からいかにして脱却するかという“出口戦略”を、できる限り早く実行すべきだという記事を書いている。それは、「トニー・ブレア首相の政策によって、その地域全体が無秩序状態に陥ったり、バルカン半島の泥沼から、世界大戦が勃発したりしないようにするためである」と、彼は述べている。
インタビューの中で、リース・モッグ卿は、ブレア首相を追放すべきだと明確に述べたわけではなかったが、ブレアのユーゴスラビア政策は失敗だったということを強調していた。彼は次のように述べていた。
「爆撃は2ヶ月近く行われたが、NATOは、ランブイエでの外交交渉で得ていたかもしれない以上の譲歩を得られそうもない。」
さらに驚いたことには、リース・モッグ卿は、「ロシアが中心となって、“出口戦略”を考え出さなければならない」と言っていた。
「ロシアは、提案されている平和維持軍の参加国としてだけではなくて、欧米が長い間、ロシアと良好な関係を保ちたいと長い間関心を示してきた、外交的プレイヤーとして、“出口戦略”を考え出す必要がある」と述べていた。
リース・モッグは、「NATOの拡大は、ロシアの熊をおびき寄せる他の手段を取りつつ、中止すべきである。」と強調した(ここで言う“拡大”とは“ソ連の勢力圏内にあった国を次々と取り込む”という意味である)。
リース・モッグ卿は、クリントン大統領がバルカン半島にマーシャルプラン式のアプローチをしていることについて、はっきりと肯定した。これは特に驚くべきことである。リース・モッグ卿は、かつては大統領を弾劾する動きの中心的役割を担い、大統領を追放しようとしていたからである。
それにもかかわらず、リース・モッグ卿は、次のように強調した。
「バルカン諸国のインフラストラクチャーを再建するのに、1000億ドル以上かかるとしたら、それはNATOが支払うべきである。“怒りを発している人々で満ちた血まみれの死体”を、世界が押しつけられることのないように。」
リース・モッグは、率直に警告を発している。
それは、イギリスでは、優れた政策アナリストが増えているが、その人たちの間では、ブレア政権がユーゴスラビアで悲惨な状況を作っていることに対して怒りが広がっているからである。そのために、ブレアが辞任せざるを得なくなる可能性があるということは、今や公然の秘密になっているそうでである。
リース・モッグは、中立の立場を取っており、保守党も労働党も、またブレアの政府も支持していない。しかし、前述のような見解を取っているのは、彼一人ではない。
●ブレアにとっては、終わりの始まり
5月22日、BBCの「国民と政治」という番組で、一代貴族ロバート・スキデルスキー卿は、ユーゴスラビアの結果について、「トニー・ブレアにとっては、終わりの始まりである」と発言した。
スキデルスキー卿は、保守党反対派の有力人物である。スキデルスキー卿は、番組の中で、NATOが取っている戦略について厳しい批判を行った。
彼は、「NATOが爆撃を行ったせいで、セルビア人は大規模な民族純化の戦略を採り、多数の難民を出すことになった」と述べた。
また、4月23日から25日にかけてワシントンで行われたNATO50周年サミットの直前に、ブレアはシカゴで“グローバル干渉主義”を表明していたが、スキデルスキー卿は、それに対する軽蔑を表した。
5月上旬、スキデルスキー卿は、オーストラリアで行ったいくつかの演説において、次のように攻撃した。
「ブレアと、彼のアメリカの共謀者は“民族帝国主義者”である。彼らは、自分たちの価値観を他の国に押しつけようとしている。」
また彼は、5月5日にメルボルンで、「NATOは、爆撃によって砂漠を作り出している」と非難した。
イギリスのエスタブリッシュメントの内部では、ブレア政権に反対する人たちが増加しつつあるが、この2人の卿が述べたことは、そのような人たちの見解を代表していると思われる。
●1999年5月21日 インタビュー:ウィリアム・リース・モッグ
(聞き手)ヨーロッパの新聞報道によれば、ブレアとクリントンの仲は、決裂しているように思えます。ブレアと外相ロビン・クックは、地上軍の投入を主張し続けており、『デイリー・テレグラフ』は、「ブレアは人騒がせだ」と書いていますが、クリントンは、地上軍の投入は拒否しています。この状況に対して、どのようにお考えですか。
(リース・モッグ)そうですね、ブレアは、NATOの他の同盟国が、どういう反応をするかについて、予測できていなかったと思います。しかし、御存知のように、NATOは、初めのうちは、地上からの侵略は行わないという方針を取っていました。……
その方針は、NATOの様々な加盟国の政治状況を反映していました。アメリカの状況だけではありません。アメリカは、アメリカ人の死傷者が出るような戦争はしたくないと思っています。ソマリアとベトナムでの失敗を繰り返したくない、そういう感情が反映していたのは間違いないと思います。これは、偽りのない本心であって、深刻な理由だったと思います。クリントン自体も、議会で地上戦に賛成しているのは少数派だったので、難しい状況にありました。……
よって、NATO軍の主力であるアメリカの状況ははっきりしていました。アメリカ人は、その時点では地上戦を行う気はなかったし、その後にも、そうする気はまずなかったでしょう。
しかし、ヨーロッパの主な国でも事情は同じでした。理由は、アメリカとはかなり違っています。
ドイツ人は、第二次世界大戦のせいで、平和主義者の伝統が非常に強くあります。ドイツ人は、ドイツが侵略国だと思われるような状況にはなりたくないと思っています。ドイツの軍隊は、主に徴兵によって成り立っています。そして、ドイツ以外の場所では、ドイツはその兵隊を使う権利がないんだと思います。ドイツには、ユーゴスラビアに徴集兵を送る権利がないのは間違いありません。憲法上、そういうことは禁止されていると思います。
(聞き手)そのとおりです。禁止されていると思います。
(リース・モッグ)また、ドイツ政府は赤と緑の政府です(つまり、社会民主党と90年連合・緑の党の連立ということ)。ですから、90年連合・緑の党に、空爆政策を支持させ続けるのは困難だということは、火を見るよりも明らかです。また、地上軍での攻撃を行ったりしたら、連立を維持することは絶対に不可能です。よって、ドイツ政府は、――ドイツは欧州連合加盟国の中で最大の国なわけですが、地上軍での攻撃にはっきりと反対の立場を取ったのです。
フランスの内閣には、フランス共産党の党員が4人いて、彼らは、攻撃には反対しているので、もちろん空爆には反対の見解を取っています。そして、地上軍による攻撃が行われることになったら、フランス社会民主主義者とフランス共産主義者は、連立を保てないと思います。
軍事的観点から絶対に外せないイタリアも、連立に伴う政治的諸問題があるので、地上戦は不可能だと思われます。
(聞き手)そうなったら、政府は崩壊するかもしれないと言われていますが、
(リース・モッグ)はい。イタリアの世論は、熱狂的ではありません。世論は、アルバニア人寄りではありません。イタリアには、単にアルバニアで内戦が起こったからという理由で、たくさんのアルバニア難民が来ていますが、イタリア人は彼らに好意を持っていません。
ギリシャの世論では、ギリシャ人は基本的にセルビア人寄りです。また、ハンガリーは、軍隊が一時的に立ち寄るためには使えません。セルビアには、34万人のハンガリー人が少数民族として存在しており、もしハンガリーがそのように使われたら、セルビア国内のハンガリー人は、民族純化の対象となってしまうからです。
ですから、現実的に考えて、地上からの侵略を効果的に行える見込みは、最初からありませんでした。また、空爆を使った戦略も、彼らが強行したところまでが限度でしょう。
さて、ここで疑問を持つべきです。トニー・ブレアは、このことを理解していて、自分の立場と国民を守るために、こう言ったのでしょうか。
「私は地上軍による侵略を要請したが、クリントンの賛成を得られなかった。」
これは、クリントンに責任を押しつけるようなものです。それともブレアは、心から地上軍での侵略を望んでいたのでしょうか。人によって、それについての見解はまちまちです。
もし、「ブレアは心から地上侵略を望んでいたが、ちょっとうまくいかなくて成功しなかったのだ」という見方をするならば、ブレアはあまりにも事情を知らなかったということになります。
それともブレアは、地上侵略は不可能だということを常に意識していて、クリントンに責任をなすりつけ、イギリス国民の究極の結論を避けることができると思ったのでしょうか。だとしたら、これは汚い政治のやり方です。
しかし私は、クリントンも、ブレアに対して取っていたかもしれない一種の戦略だったと言って差し支えないと思います。
(聞き手)あなたは最近、出口戦略についてたくさん書いておられますが、それについてのお考えをお願いします。
(リース・モッグ)私は最初から、バルカン半島の外交における最優先の原則は、NATOがロシアと良好な関係を保つように気をつけなければならないということだと思っていました。ロシアが賛成できないような政策を実行しようとしたら、不満足な結果になっていたでしょう。
交渉を今も続けていたら、何らかの解決が得られるはずです。それは、人間に対するダメージはほとんど与えず、ユーゴスラビアのインフラストラクチャーに多大な損害を与えた後で成立したでしょう。
ユーゴスラビア国民が、アルバニア人の難民を多数追放するか、あるいは、アルバニア難民の大部分が、ユーゴスラビアに二度と戻らないとなった段階で。我々がもっと現実的だったら、ランブイエの時に締結できたかもしれない条件と同じくらいの好条件で、協定を結ぶことができるでしょう。
(聞き手)あなたは、ロシア人をどのように巻き込んだらいいと思いますか。あなただったら、ロシア人に何をさせますか。 ロシアは、平和維持軍に参加すると思いますか。
(リース・モッグ)基本的に、ロシアが平和維持軍に参加するように勧めたいと思っている人は多いと思います。明らかに、紛争解決の仲裁に入ってもらいたいと強く思っていると思います。ユーゴスラビア人は、ロシア人が主張しようとしているものよりも、いい解決策を提案することはないだろうからです。
また、私は、NATOはヤルタ協定で大きな間違いを犯したと思っています。ヤルタ協定は、ロシアの勢力範囲に、ドイツの半分、オーストリアの一部、中央ヨーロッパと東中央ヨーロッパの全体、ギリシャを除くバルカン半島を含めるというものでした。ギリシャは、西洋の勢力圏内に残すことになっていました。
ソ連が崩壊し、国が分解したことによって、NATOは、その協定のすべてを無効にできるかもしれないと考えました。NATOの考え方は、中央ヨーロッパについては正しかったと思います。ポーランドとチェコ共和国とハンガリーは、基本的に西洋の方を向いているからです。また、ロシア人が好むにしろ好まないにしろ、この3ヶ国がNATOに加盟し、最終的には欧州連合に加盟しようという方向転換をしたことは、非常に地政学的意義のある動きでした。
NATOはいまだに、ルーマニアとブルガリアをNATOに加盟させようという考えを持ち続けていますが、それは全く意味がないと思います。NATOがバルカン半島でその手の支配力を振るうのは、ロシア人は常に非常に不愉快に思うでしょう。
(聞き手)ズビグニュー・ブレジンスキーが言っているように、ウクライナも最終的には加盟すると思いますか。
(リース・モッグ)彼らはそう言っているのですか。
(聞き手)ズビグニュー・ブレジンスキーは、「NATOは無制限に拡張し続けるべきで、最終的にはウクライナも含めるべきだ」と述べています。
(リース・モッグ)それはクレージーだと思います。私は、彼がそう言っているとは知りませんでした。
(聞き手)ブレジンスキーは、『壮大なチェスボード』という本の中でそう書いています。
(リース・モッグ)そうですか。私はずっと、ブレジンスキーは、どうしようもないほど傲慢で、地政学の顧問としては無能だと思っていました。彼は、ほんとに頭が悪いと思います。
しかし、それは非常に下手くそなアドバイスです。そのようなことをしたら、ある意味では、絶えずロシアを押さえつけておかなければならないし、ロシアでは大いに不満が出るでしょう。またはロシアを戦争の気分にしてしまうかどちらかです。そして、ロシアは、地政学的な意味で、たとえ最低の時であっても強国の一つです。ロシアはまた、主な核保有国でもあります。
私は、NATOはロシアの長期的な重要性を実際には理解していないと思います。少なくとも、アメリカ政府は理解していないし、NATOの他の国も同様だと思います。それがこの悲劇を構成している一部です。ロシアが加わっていれば、もっとコソボの人々のためになる良い解決ができていたと思います。
(聞き手)ロシア首相エフゲニー・プリマコフの解任については、何かご意見をお持ちですか。それを聞いた時に驚かれましたか。それによって、ロシアは情勢が悪くなると思われますか。それとも、解任によって状況は良くなるとお思いですか。
(リース・モッグ)わかりません。プリマコフは、見事とまではいかなくても、なかなかいい仕事をしていたと思います。しかし、プリマコフの解任は、弾劾の勢いを完全に弱めたという点で、エリツィンに有利に働いたと思います。私は弾劾によって、エリツィンは地位を失うかもしれないと思っていました。エリツィンは、うまくやったと思います。
(聞き手)ロシアと協力する以外に、あなたが出口戦略に必要不可欠だとお考えになるものには、何かありますか。
(リース・モッグ)ありません。空爆は、莫大なダメージをミロシェビッチに与え、圧力をかけていると思います。それによって、逆にNATOにも圧力がかかっています。問題の一つは、誰がユーゴスラビアを再建するかということだと思います。……
ユーゴスラビアを去るのはよくないと思います。さもなければ、残るのは、怒った人々で満ちた血まみれの死体の類です。
(聞き手)そのとおりです。クリントン大統領は、バルカン半島に、マーシャルプランと同じものを適用することを主張しています。これについてはどうお考えですか。
(リース・モッグ)どういう方法を取るにしても、莫大な金が必要なのは間違いありません。
(聞き手)推定では、インフラストラクチャーだけでも、1200億ドルの損害が出ているそうです。
(リース・モッグ)その数字は、かなり大雑把なんじゃないでしょうか。しかし、NATOは、自分たちが与えた損害を埋め合わせるために、1000億ドルは支払ってもいいんじゃないかと思います。
そして、一部はNATOが破壊し、一部はセルビア人が破壊した、コソボの人たちが元の状態に戻れるように世話をするのはもちろんのことです。これが、今回のような特殊な戦略方針がもたらす不利益の一つです。……
問題を解決しないで、自ら新たな問題を作ったのです。今となっては、現在の問題に対しては、その方法以外では、これ以上良い解決の仕方は望めないと思います。恐らく、はるかにひどい結果しか得られないでしょう。そして、新たに作られた問題を解決しなくてはならないのです。
(聞き手)全くそのとおりです。では、ブレアは地上軍の投入を主張し続け、クリントン政権はそれを拒否し続けていますが、ブレアはその結果として、立場が悪くなると思われますか。
(リース・モッグ)そういうことはないと思います。私はそうなるべきだと思いますが。……
ブレアは、国内政治で大きな損失を被っています。そして、世界情勢をよく学んでいる政治アナリストの間では、かなりの割合の人たちが、「ブレアのやり方は非常にまずい」と考えていて、ブレアを非難しています。そう思う人たちは、間違いなく徐々に増えていくでしょう。
(聞き手)ブレアは、他の人が躊躇している時に、一人英雄気取りで“断固とした解決”を主張していると思われているのではないですか。
(リース・モッグ)ブレアは、誰もOKしてくれないだろうと十分わかっていて、英雄気取りで断固とした解決を主張しているのです。
|