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▼ バルカン半島の平和への戦いが始まった


●バルカン半島和平合意の実態

 締結されたばかりのバルカン半島和平合意は、もろい土台の上に成り立っている――というのは、控えめな言い方だと思われる。
 6月10日、国連安全保障会議は、14対0で(中国は棄権)、3ヶ月続いたユーゴ紛争を、政治的に解決するための正式な枠組みを決定した。NATOは、その数時間前に、すでにユーゴスラビアへの空爆を停止していた。これは、荒廃したコソボ自治区から、ユーゴスラビア軍が撤退し始めたことが確認されたからである。
 クリントン大統領は、国連安全保障理事会の合意文書にサインをするやいなや、その数時間後、テレビでアメリカ国民に向けた短い演説を行った。クリントンは、外交による解決が実現したことに対する安堵感を表明し、「今回の紛争は、さらに拡大する可能性を持っていたが、我々はそれを回避することができた」と述べた。
 実際に、外交的解決が実現するまでは、このバルカン紛争は、どこから見ても“世界戦争の始まりとなる小紛争”という折紙つきだったのである。その世界戦争は、20世紀の2度の大戦で見られたどの戦いよりも、1618年から48年にヨーロッパを荒廃させた30年戦争に近いものである。

 明るい面としては、クリントン大統領、ドイツ首相ゲアハルト・シュレーダー、そしてドイツ以外のヨーロッパ大陸諸国の指導者が、「バルカン半島に和平をもたらすポイントは、経済の復興を実質的に十分に進めることだ」という合意を行ったことである。
 実際、クリントン大統領らが、停戦と平和維持に関する枠組みを作り上げ、実行に移すことができたのは、NATOによる空爆作戦から、外交による解決(ロシアが加わり、また南東ヨーロッパ経済を復興させる決定をした)に、ポイントを移したことによるのであって、その他の理由によるものではない。

 これらの状況は、アメリカ国務副長官ストローブ・タルボット、ロシア大統領のバルカン問題特使ビクトル・チェルノムイルジン、欧州連合の和平交渉担当フィンランド大統領マルッティ・アハティサーリの3者が、数週間に渡って、大変な外交努力を行った末に達成されたものである。
 しかし、この達成は、イギリスの強力な反対を押し切って初めて可能になったのであり、またその前には、イギリスとアメリカが、数ヶ月に渡って、ペルシャ湾とバルカン半島で軍事侵略を行い、ロシア・中国と、アメリカとの関係が危機に曝されるところまで行ったという状況があった。

 クリントン大統領は、その“アングロ・アメリカン条約”を破ったのである。その始まりは、4月15日にサンフランシスコで行われた演説においてであった。クリントン大統領は、その演説の中で、経済の再建を通じてエスカレートしているバルカン戦争を終結させるための出口戦略を講じる必要性があることを訴えた。
 その1週間後、クリントン大統領は、ワシントンで行われたNATO50周年サミットにおいて、イギリス首相トニー・ブレアと決裂したことを明らかにした。このサミットで、クリントン大統領は、シュレーダー、イタリア首相マッシモ・ダレーマとの協力関係を復活させた。そして、イギリスがコソボに全面的な地上侵略を行うことを強く主張しているのに対して、正式に拒絶したのである。
 また、クリントン大統領は、“アングロ・アメリカン”の外套を脱ぎ捨てると同時に、副大統領アル・ゴア、国務長官マデリン・オルブライトという、イギリスの最有力の手下2人を格下げにしたのであった。

 しかし、クリントン大統領が、ロンドンと英米連邦がワシントンに送った代表団を犠牲にして、大統領としての力を取り戻そうとしている時でさえ、世界では、戦略上の大きな動揺がまだ続いていたのである。

○元首相エフゲニー・プリマコフは、ソ連が崩壊して以来、政府を指導する立場に立った人物の中で、国民に人気があり、効果的な政策を実行した初めての人物だった。
 プリマコフがボリス・エリツィン大統領に解雇されたのは、プリマコフが汚職にまみれた大立て者の派閥の勢力をねじ伏せようとしている最中だった。プリマコフは、欧米の投機家と、天然資源の寡占企業と結びついた者たちをねじ伏せようとしていたのである。プリマコフの解任以来、ボリス・ベレゾフスキーに象徴されるその派閥は、エリツィンの側近への支配力をますます強めている。

○インド政府が、不信任決議によって崩壊した。そして、秋まで選挙は行われない予定になっている。これは、南アジア亜大陸が、いまだに強い政情不安定の中にあるということを示している。

○アメリカと中国の戦略上のきずなが崩壊した。これは、ベオグラードの中国大使館が、“間違って”爆撃されたことと、“両党提携”のコックス委員会レポートが発表された結果である。
 この報告書は、アメリカの国立研究所から、トップシークレットの核兵器の設計図が盗まれたという主張に基づき、「中国はアメリカにとって軍事的な脅威である」というでっち上げをしたものである。クリントン大統領が、中国の指導者層に対して、大使館が爆撃された経緯について誠実で十分な説明をし、その事件に責任があるNATOとペンタゴンの上層部の人間に対して強い対応を取らなかったら、アメリカと中国の関係は、袋小路から抜け出せないだけではなく、よりいっそう悪化するだろう。

 政情不安定が噴出している上述のどのケースにおいても、イギリスの“見えざる手”が働いていることは間違いない。
 中国・ロシア・インドを中心とする“生き残りクラブ”は、アメリカとヨーロッパ大陸諸国にとっては自然な盟友である。これらの国が、ニュー・ブレトンウッズ金融体制を創設し、世界の経済再建を目指して、ユーラシア陸橋計画を遂行するならば、“不誠実な英国”の勢力を世界から永久に取り除くことができる。ロンドンの戦略家たちは、この計画についてよく理解しているのである。

 イギリスが目指していることは、第三次世界大戦が勃発するまで、またその大戦の引き金を引くことも含めて、使える手段はすべて使い、こうしたビジョンが実現するのを妨害することである。


●英国人が襲いかかる

 英米連邦は、15ヶ月の間、クリントンの大統領としての力を麻痺させてきたが、クリントン大統領は、その状態から脱却し、必要不可欠なヨーロッパとロシアの力を借りて、バルカン半島の混乱状態に対して、外交的解決を行うことができた。これによって、ブレア政権は、劇的な後退を余儀なくされたのである。

 ブレアが失敗したことは、すでにイギリス女王の目には明らかになっている。ブレアはまもなく政治の舞台から消えることになるだろう。それはあたかも、エリザベス女王がかつて重んじていた馬が、難局に差しかかって倒れ、女王の慈悲も得られず、強制的に膠(にかわ)工場に運び込まれるようなものである。
 しかし、バルカン半島の和平プロセスがスムーズに進展していくのを、イギリスが黙って見ているわけはない。もし、歴史が自らガイダンスを行うとしたら、次のような説明がなされるだろう。
「イギリスと、NATOに潜伏しているその手下が、新たな“緊張戦略”の変則的な戦争を、バルカン半島、中東、極東で開始する。そこでは、弱々しい和平プロセスが、思い出したように時々行われるのである。」

 イタリアとドイツは、すでにテロリストによる政情不安定化の標的となっている。イギリスの“イスラム主義者”は、重要な工作員であり、インドとパキスタンが、カシミールを巡って、実戦に突入するように挑発していると見なされている。
 また、南レバノンでは、イスラエルで選挙が行われた後に、テロリストの非道行為が盛んになった。イスラエルのこの選挙においては、イギリスの辺境領主、ベンヤミン・ネタニヤフとアリエル・シャロンが、大差で敗北した。これは、イスラエル国民が、イスラエルとパレスチナ、イスラエルとシリアの和平プロセス再開を望んだ結果であった。

 6月11日、ヘルムート・コール内閣で経済相を務めていたユルゲン・メレマンは、パラシュート事件によって、あやうく死ぬところだった。警察は、その事件は、プロによる手の込んだ破壊工作だと断定した。
 現在メレマンは、ドイツ・アラブ教会の会長を務めているが、彼はトルクメニスタンと石油の取り引きをするという、儲かる話をまとめようとしていたために、最近イギリスに狙われていたのである。メレマンの計画は、イギリスのコンソーシアム(共同事業体)の利益と真っ向から反している。


●深まるロシア危機

 ロシアがバルカン和平プロセスに加わったことは、非常に高い犠牲を払ってのことだった。それを克服する唯一の方法は、ロシアが深く関わりながら、中央ヨーロッパの再建が速やかに行われることである。
 国連安全保障理事会で評決が行われてから、エリツィン大統領とその特使チェルノムイルジンは、非難の嵐を浴びてきた。6月10日、ロシア国家会議(下院)は、チェルノムイルジンがロシア連邦の国家利益に反する方針を取っているとして、チェルノムイルジンを非難する決議を行った。この決議は、271対92という圧倒的な差で可決された。決議文書には、次のように述べられていた。
「バルカン半島のロシアの戦略的同盟国が敗北したことによって、ロシアの地政学的立場は急激に悪化し、国家の安全保障にとっては深刻な脅威となっている。」

 同じ日、ロシアの軍事アナリストで、ロシアの軍事情報機関を代弁することの多いパヴェル・フェルゲンガウアーは、英文の『モスクワ・タイムズ』に記事を載せている。
 フェルゲンガウアーは、「欧米寄りのクレムリンは、セルビアを裏切った」と非難した。また、「ロシアがコソボ平和維持軍に加わったら、ロシア軍はその主人であるクレムリンと同じく、欧米に雇われた代理人となってしまうだろう」と警告した。もっと不吉なことに、彼は次のように結んでいる。
「ロシアの軍部は特にそうだろうが、ほとんどのロシア人は、エリツィンがクレムリンに居座り続けていることは、ロシアにとってとんでもないマイナスであって、ハンディキャップであると、ますます強く信じるようになっている。ロシア国家と軍部は、エリツィンを追い出すために、選挙まで待つことはとてもできないだろう。」

 もっと不吉なのは、6月8日に中国の『人民日報』に掲載された記事である。その記事によれば、ロシアは、限定核攻撃のできる小型の核弾頭を開発し、それに基づく新たな戦闘概念を実施しているということである。
 そして、エリツィン大統領は、ロシアの核抑止力を再び強化するために、非戦略的核兵器を開発する命令を出した。ロシア首相セルゲイ・ステパーシンは、国家会議において、国防予算をGDPの2.8%から3.5%に増やすことを発表した。それは、非戦略核兵器に資金を確保するためだということである。
 エリツィンは、そういう小型核弾頭と超小型核弾頭が1万個あると言ったと報道されている。その核弾頭は小型とはいえ、それ全体で、アメリカが広島と長崎に落とした爆弾2個の1000倍の爆発力を持っているということである。

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