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▼ バラク首相就任で中東和平は推進されるか


●バラクの首相就任

「我々の義務は、この仕事を終わらせ、中東に包括的な和平をもたらすことである。」
 7月6日、エフド・バラクはこのように述べて、イスラエルの首相に正式に就任した。その日、バラク首相のスポークスマンは、次のように発表した。
「バラク首相は、パレスチナ自治政府議長ヤセル・アラファト、エジプト大統領ホスニ・ムバラク、ヨルダン国王アブドラ2世と会談を行う予定である。その会談の後には、早くも7月16日にワシントンに行って、ウィリアム・クリントン大統領と会う予定である。」

 政府のこのような変化は、眠っていた中東和平プロセスを復活させるための第一歩として、多くの人に歓迎された。
 このような状況は、クリントン大統領にとっては、めったにない2度目のチャンスである。クリントン大統領は、“広範囲な中東地域の経済発展に基づいた永続性のある中東和平プロセス”を実現させるために、しっかりした基礎を固めたいと思っているからである。

 1993年に結ばれたオスロ合意は、イツハク・ラビン首相が暗殺され、ベンヤミン・ネタニヤフが首相に当選したことにより崩壊した。
 この崩壊を招いた理由は、イスラエルとパレスチナが、組織的にテロ行為を行ったからだけではない。もっと重要なことは、オスロ合意の核として、経済を発展させる計画が含まれていたが、それが実行されなかったからである。
 バラクが政権につき、中東の他の指導者たちも和平プロセスを進めたがっているので、クリントン大統領は、1回目のチャンスをぶち壊した世界銀行、IMFなどの国際金融機関を厄介払いするのに必要なパートナーを得たことになる。


●“我々の歴史的な義務”

 バラクは、クネセトの承認を得るために、クネセトで新しい閣僚を紹介した時に次のように述べている。
「我々に開かれたャンスを利用して、イスラエルに長期的な安全と平和をもたらすことは、我々の歴史的な義務である。安定した包括的な和平は、4本の柱に基づいた時にのみ実現するということを我々は知っている。すなわち、エジプト、ヨルダン、シリアとレバノン、そして当然のことながら、パレスチナ人である。……
 今日この時から、私は中東の全指導者に呼びかける。我々の伸ばした手に、その手を伸ばし、勇者の和平をもたらそうではないか。中東は、あまりにも多くの戦争と血と苦しみを経験してきているからである。」

 バラクは、シリアのハフェズ・アサド大統領に対して、次のように呼びかけた。
「イスラエル新政府は、断固として、できるだけ早く、平和と安全に関する協定のための交渉を再開するつもりである。協定は、相互的で完全なものであって、国連安全保障理事会決議242と338に基づいたものでなければならない。
 我々は、戦場においては憎い敵同士だった。しかし今、オープンで大胆な和平を実現する時が到来した。我々の国民と子供たち、そしてその子供たちの未来と安全を保証するために。」

 バラクは、パレスチナ人には次のように呼びかけた。
「私は、イスラエル国民の苦しみだけではなく、パレスチナの人々の苦しみも理解している。私は、暴力と苦しみを終わらせたいと心から思っている。
 そして、ヤセル・アラファト議長をはじめとして、パレスチナの選ばれた指導者たちと協力し合い、お互いに尊重し合って、皆の同意に基づく公正な協定を作っていきたいと強く望んでいる。自由と繁栄、そして両者が住み続けるこの愛する土地において、“良き隣人関係”が実現するように。」

 バラクは、クリントン大統領、ヨルダン国王アブドラ2世、エジプトのムバラク大統領と並んで、モロッコのハッサン国王にも、この和平実現の努力に貢献してほしいと述べた。
 バラクがハッサン国王に言及したことは重要である。モロッコは、北アフリカの主要なアラブ国家だが、モロッコとの関係は、ネタニヤフ政権のもとで事実上崩壊していたからである。


●バラクの新政府

 バラクは42日間もかかって連立政府の組閣を行った。しかし、組閣に参加した党全体で、クネセト120議席中、75議席をカバーすることができた。
 組閣に日数がかかった主な理由は、「一つのイスラエル」と名称を変更した労働党と、リクードの二つの連合政党が、5月17日の選挙でかなりの議席を失ったからである。そのために、特定の宗教・民族・政治的利害を代表する政党が、前代未聞の乱立となっていた。
 バラクが、75議席という大多数を集めることができたのは、七つの政党を内閣に加えるという思い切った措置を取ったからである。
 連立に加わったのは、一つのイスラエル、宗教色のない和平推進派のメレツ、結成されて間もない中道党、さらに、入植者運動の利益を代表するタカ派の国家宗教党、超正統派のスファラディー・ユダヤ人を代表するシャス、アシュケナジー・ユダヤ人を代表している、相当にタカ派のユダヤ教連合である。この中で、国家宗教党、シャス、ユダヤ教連合は、ネタニヤフの政府にも加わっていた(イスラエル・バアリヤ(ロシア人の政党)も、ネタニヤフの連立に加わっていた政党である)。

 あるコメンテーターは、「バラクの組閣が遅かったのは、政治家としての経験が少ない証拠だ」と発言している。また、「バラクが右派政党を内閣に入れたのは、彼自身が右派寄りだという噂が事実だからだ」と非難している人もいる。
 しかし、どの人も、「バラクは、スフィンクスのような態度を取っている」ということでは一致している。「バラクは、最終的に行動に移すまでは、内輪の人間にしか本当の意図を明かさない」ということである。
 とはいえ、バラクは超右派のアリエル・シャロンを出し抜いたようである。
 リクードの党首代行となったシャロンは、「相当に攻撃的な野党勢力を組織する」という脅しをかけて、バラクと共に“国民統一政府”を作りたいと思っていた。しかし結局のところ、バラクは、17議席を獲得してクネセトで2番目の最大政党になったシャスを連立に迎え、シャロンは無視されてしまったのである。
 クネセトで、新政府承認のための評決がなされた時、それに反対する勢力は、29票しか集めることができなかった。投票を棄権したのは10議席だが、それらはアラブ系政党が支配しているので、シャロンがクネセトで力のある野党勢力を作ろうと思っても、難しいのではないだろうか。

 バラクの閣僚の顔ぶれは、その連立と同様に扱いづらいと思われる。バラクは、法律で18人に制限されている閣僚の数を、24人に増やそうとしているが、それにはバラク自身の「一つのイスラエル」の党員の多くが難色を示している。
 七つの政党で、18しかない大臣のポストを分配しなければならないので、バラクは「一つのイスラエル」の指導者の間では肩身が狭くなっており、政治問題コメンテーターの批判を集めている。しかし、バラクの選択は決して狂気の沙汰とは言えず、もっともな理由があるのである。

 イスラエルの体制では、首相の次に重要な大臣のポストは、国防相、蔵相、国内治安相、外相、法相である。このポストについた閣僚は、自動的に安全保障閣議を構成する。
 安全保障閣議は、和平プロセスに重要な役割を果たすだけではなくて、イスラエル内外からの和平プロセスを妨害しようという企てに対処する。
 覚えておくべきことは、バラクが選挙に勝利して以来、バラクの身辺には、相当に厳重な警備がなされているということである。
 この理由と、その他にも理由があるが、バラクがこれらの重要なポストについて行った選択には、さらに重要な意味がある。全員が和平プロセスを推進するつもりであり、どの人も尊重されているということなのである。


●新しい閣僚

 ラビン首相と同じように、バラクは国防相を兼任する。その他の閣僚は、以下のとおりである。

 蔵相に任命されたのは、アブラハム・ショハットである。
 ショハットは、ラビン政権でも蔵相を務めている。また、エンジニアの技術を持っており、イスラエル航空機産業社の元重役で、アラド市の創設者である。新自由主義の財界人は、ショハットが蔵相になることを歓迎していない。

 外相には、ダビド・レビが任命された。
 レビは、現在は「一つのイスラエル」に所属しているが、その前にはリクードに所属しており、イツハク・シャミル首相(リクード)の下で外相を務めていた。
 レビは、ネタニヤフ政権の時には外相を辞任している。ネタニヤフが、和平プロセスを妨害していたからである。

 法相は、ヨシ・ベイリンである。
 ベイリンは法律家ではないが、法務省は、彼の高潔さと誠実さを歓迎している。法務省は、ネタニヤフ政権時代に汚職の申し立てと不正がはびこっていたからである。現に、前任者のツァヒ・アネグビは、汚職で訴えられている。
 しかし、もっと重要なことは、ベイリンは、オスロ合意を実現させるのに重要な役割を果たしたシモン・ペレス元首相の子分だということである。ベイリンは法務省を活用して、イスラエル憲法の起草の運びとなるような政策を始動させたいと思っている。彼が安全保障閣議に入ったことは大きな意味を持っている。

 国内治安相は、シュロモ・ベンアミである。
 国内治安相は、イスラエル警察と、イスラエルの国内治安諜報機関シン・ベットを統轄する。通常このポストには退役した将軍が就任していたが、ベンアミは元大学教授である。
 しかし、ベンアミは「一つのイスラエル」で最も有名なクネセト議員であり、和平プロセスに断固として取り組む“実力のある知識人”だと思われている。

 シモン・ペレスのために新しい省が作られ、ペレスは地域協力相となった。この省が担当する仕事の内容は、数週間以内に決まる予定になっている。
 ペレスは、この省には地域経済開発計画を監督する権限を持たせたいと思っていると言われている。ペレスも安全保障閣議に加わると思われる。

 この他に重要な大臣のポストに教育相がある。教育相に任命されたヨシ・サリドは、メレツの党首である。
 教育相には伝統的に宗教政党の人物がなっていたので、サリドが任命されたことは“小さな革命”だと思われている。その理由は、メレツ、特にサリドは、徹底した世俗主義だからである。サリドは、和平プロセスを強く支持している。

 ネタニヤフに国防相を解任され、ネタニヤフ政権崩壊の一因を作った中道党のイツハク・モルデハイは、運輸相に任命された。モルデハイも、安全保障閣議に加わる予定である。


●和平プロセス

 現在残されている大きな疑問は、和平を公約したバラクが、実際にどのような政策を取るかということである。その主な相手は、シリアとパレスチナの二つである。
 6月後半の3週間、イスラエルとシリアは、イギリスのジャーナリスト、パトリック・シーレを間にはさんで、活発な討論と情報の交換を行った。
 シーレは、シリアのアサド大統領の公式の伝記作家である。シーレはイスラエルとシリアを訪問し、両国の高官と会い、バラクとアサドにインタビューを行った。

 シーレが行ったこの往復外交によって、シリアとイスラエルが交渉を再開するに当たって、その基礎となる三つの重要ポイントが明らかになった。
 第一に、両国は、ネタニヤフが1996年に首相になる前に中断した所から交渉を始めるということである。
 第二は、イスラエルは、ゴラン高原から1967年の国境線まで撤退するということである。撤退は、完全な和平の代償として行われ、外交関係を含めた相互協定に基づいて行うというものである。
 第三は、両国が協定を締結し、その協定を保証するためには、アメリカが決定的な役割を果たすことが絶対的に必要だということである。両国とも、早急にこの和平プロセスを始めたい意向を明らかにしている。

 パレスチナ側との交渉については、バラクは、ネタニヤフが署名して実行しなかった1998年のワイ・リバー覚書の規定は実行しないで、最終地位交渉に直接移りたいと思っていると言われている。しかし、クリントンもアラファトもそれには賛成しないだろう。
 よって、今のところは、バラクはワイ・リバー覚書の残りの約束を実行するだろうと予想されている。その約束には、西岸の17%から撤退することが含まれている。

 最終地位交渉は、ワイ・リバー覚書の履行と平行して始められると予測されている。そして、さらに困難な問題に手がつけられるのは、この時である。これには、エルサレムの問題が含まれている。
 バラクは、「エルサレムは統一されたままであり、イスラエルの主権下にあることを保証する」と宣言している。
 バラクは、ユダヤ人の西岸への入植については、「新しい入植地を作るのは反対である」と宣言した。しかし、すでに西岸のあちこちに作られている入植地の大多数については、「取り壊すつもりはない」と述べている。


●ネタニヤフは降ろされたかもしれないが、追放されてはいない

 ネタニヤフは、バラクが首相になった日に、クネセト議員を辞退した。これは、ネタニヤフが守った唯一の約束である。これは、「即刻政界を去る」というネタニヤフの約束の一部である。
 ネタニヤフは、西ヨーロッパとアメリカに講演旅行をしに出かけるのではないかと思われる。ジョージ・ブッシュやマーガレット・サッチャーがよくやっているのと同じように、講演料をがっぽり稼ごうという目的である。
 また、ネタニヤフは、ラビン首相を暗殺した勢力である、超右派の入植者運動と政治的党派のために、資金集めをする予定だとも言われている。そして、新政府の政策を妨害し、動揺させる約束をしているということである。

 6月の最後の週に、アーヴィング・モスコウィッツは、東エルサレムのアラブ人のまっただ中で、住宅建設計画を開始した。フロリダのビンゴ・パーラー経営者であるモスコウィッツは、ネタニヤフの選挙資金提供者の一人で、イスラエルで最も過激なグループに巨額の資金を提供している人物である。
 モスコウィッツは、アテレット・コハニーム・イェシェバの主な援助者でもあるが、同イェシェバのメンバーは、その入植地で生活する予定になっている。
 アテレット・コハーニム・イェシェバは、いわゆる第三神殿の建設を呼びかけている団体である。彼らは、「第三神殿は、岩のドームのアルアクサ・モスクを破壊してからでないと建設できない」と主張している(アルアクサ・モスクは、第一神殿と第二神殿のあった場所に建てられている)。
 岩のドームは、イスラム教の3番目の聖地であり、「このドームに何かあったら、中東戦争が勃発するかもしれない」ということは、多くの人が認める事実である。

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